Memo
雑記。
イラストストーリーを連載中です。

17・9・21
◆イラストストーリー

 2週間前の夜。ランプが揺らめく神殿内の一室で、アズリとサーリはテーブルを囲んでイシアイから報告を受けていました。
「ノースウェル。あそこの教会には、存在を忘れられた悪魔が500年近く結界内に幽閉されていたようだ。その悪魔が何らかの理由で結界から逃げ出し、名家の少女ロウズにとり憑いて強力な魔剣を手にしたと考えられる」
 イシアイの言葉にアズリとサーリは顔を見合わせ、納得したように頷きながら、続きに耳をかたむけました。
「天界の戦争記録によると、その魔剣は、500年前に行方不明になった魔界の王子が戦場で愛用していたものに酷似していた。魔剣は王子の使い魔である多くの蛇を宿しており、彼らに斬れないものはないという」
 これらの情報から『悪魔は、東の国の第二王子ヴァッサーゴ。魔剣は彼が愛用していたエペタムではないか』という推測にたどり着いたと、イシアイは報告を終えました。
「王子ヴァッサーゴに、魔剣エペタム……伝説で聞いたことがある。兄のアガレスに暗殺されたというのが通説だけれど、まさか人間界でずっと生きていたなんて」
 ふたりが驚いていると、イシアイから2枚の古い羊皮紙をわたされました。
 1枚はヴァッサーゴの似顔絵。もう1枚はエペタムと思われる黒い柄の剣と、使い魔の蛇が描かれていました。

 どちらも大昔、戦場でヴァッサーゴと戦ったことがある勇敢な天使が当時に描いたものです。これら2枚は貴重な資料として、神殿内に厳重に保管されていたのでした。
 サーリは初めてヴァッサーゴの似顔絵を見た時、摩訶不思議な印象を受けました。
(狐のような猫のような犬のような……ヘンな悪魔。首にかけた懐中時計がなんだか浮いてる)
 一方、エペタムは(形状が弓なり。人間界の東方で造られる剣に似てる。見た目はどこにでも流通してる普通の剣。正直、護身用として誰でも持っていそう)と思いました。
 しかし、すぐ下に描かれた蛇だけが異様な雰囲気を放っており、サーリは襲い来る彼らを思い出してまた寒気立ちました。
 あの時、サーリは生まれて初めて身の危険というものを感じたのです。
 暗殺命令が下されるたびに淡々と多くの命を奪ってきたはずなのに、いざ自分の命に危険が及ぶとなると、こんなにも恐ろしい気持ちになるのだと戸惑いを隠せませんでした。

「どうした、サーリ」
 アズリに呼びかけられて、ハッと我にかえります。気分を落ちつかせるために紅茶を一口飲み、それからたずねました。
「ねえ、アズリ。ヴァッサーゴはなぜ、ロウズにとり憑いたんだろう。彼女、クローディア病にかかっているんでしょう。なぜ、わざわざそんな子に」
「わからない。しかし、ロウズは14歳の頃から幽閉されていたヴァッサーゴの元に度々訪れていたそうだ」
「もしかして、交友関係があったとか……まさかね」
 魔女ならわかりますが、ただの人間。それも14歳の少女と、凶悪と言われている悪魔に友情が芽生えるとは考えにくいとサーリは思いました。そもそも、悪魔や天使が見える人間自体、ごく限られているのですから。
 しかし、アズリは首を振ります。
「私はその線も疑っている。ロウズは妖精など不思議な存在が見える少女だったらしい。悪魔も例外ではないだろう。もしかしたら、ロウズに情がわいた悪魔ヴァッサーゴが、病死間近の彼女を生かすために憑依したのではないか。そう考えることもできる」
 サーリは目を見開きました。
「悪魔に情がわくことなんてあるの」
「記述によると、ヴァッサーゴは悪魔の中でも比較的穏やかな性格だったとある。昔は魔女と協力して人助けも行っていたそうだ」
「じゃあ、アナナスの魂を必死に奪い返そうとしていたのは」
「ロウズとアナナスは親友関係にあったらしい。おそらく、アナナスを生き返らせて治療薬を完成させるためだったのかもしれないな」
「そう……」
 サーリは複雑な気分になって目を伏せました。不治の病にかかっているロウズにほんの少しだけ同情してしまったのです。
 命が奪われる恐怖を身をもって体験したサーリは、知らず知らずのうちに、命の危機にさらされている者に共感するようになっていたのでした。
「ねえ、アズリ。私たちのやったことって、本当に正しいことだったのかな」
「サーリ。治療薬が完成すれば、いずれ人類は衰退する。クローディア病を患った者たちを救おうとしたがために、将来、全人類が犠牲になるのは間違っている。それにこの話はあくまで私の憶測だ。あまり気に病むと、次の暗殺命令が下りたときに支障をきたすぞ」
 サーリに緊張が走ります。次の暗殺命令。
『アナナスの生まれ変わりの命をまた奪うこと』を指しているのだとすぐに気づきました。
「サティ様があんなことをされなければ、1回で終わっていたのに……」
 サーリは誰ともなしにぼやきました。
 輪廻転生を司る女神サティ。彼女は、抹消予定のアナナスの魂を独断で神殿から持ち出し、レーテー川に流して人間界へ逃がしてしまったのです。
 これにより、アナナスの魂はまた新たな人間として生まれ変わることになります。
 自然界の掟として、魂の行方は女神サティ自身さえも分からず、現在イシアイたちがアナナスの生まれ変わりを探し出そうと、人間界の監視を続けています。
 サティは事が発覚した後、神々から強烈な非難を浴びました。
 過去に単独で魔界へ赴いた件もあったのでしょう。2度の大罪を犯した愚神と罵られ、彼らに仕える天使たちに連行されていきました。現在は罰として監獄に幽閉されています。

 サティの後任は、彼女の血縁関係にあたる従妹のルーティがつとめることになりました。
『仕事に不慣れなルーティがいずれ一人前になったとき、サティは用済みとして処刑されるのではないか』
 そう天界ではまことしやかに囁かれていました。
「ねえアズリ。サティ様は厳しい刑罰を受けると分かっていて、なぜあんなことをされたのだろう」
「そうか、サーリは神殿での会議内容を知らされていないんだったな。ここだけの話だ。サティ様は、以前から人間の命を奪うことに反対されていたんだ。人間界に天界の者が介入するべきではない。人間界の事は、人類がすべての選択・決定権を持ち、責任を負うべきだと主張されていたんだよ」
「それって、私たちは何もせずに見ているだけってこと?治療薬が完成すれば、人類が衰退する未来が分かりきっているのに」
「そういうことになるな。しかし彼女は自信を持って言っていたそうだ。『人類は失敗もするが、常に考えいずれは正しい道を選択することができる。そういった可能性を秘めた存在なのだ』と」
 サーリは眉をひそめ、考えました。
 ――イシアイは『危機的な未来』を予知しただけであって、その後のことは誰も知らない。神々は人間界で起こる危機を事前に阻止したがっていて、自分もその考えがずっと正しいと思っていた。
 けれど、サティ様は違った。人類が危機に直面したとき、最善の行動をとると信じているんだ。
『信頼すること――常に相手に善意を見いだし、根拠を求めずに無条件に信じること』
 その行為は、一見愚かに思えるけれど、相手に対する敬意と尊重、そして自分自身に勇気と信念がないと出来ないことだ。
 そうサーリは感じ、女神サティにある種の強さを見出しました。
(サティ様……あんなに幼いのに、そんなことを)
 しかし、揺らぐ彼女の感情を切り捨てるように、アズリはため息まじりに話を続けます。
「根も葉もなく、まったく根拠のない理論だと思わないか。感情的かつ無責任だとも言える。万が一、人類がそのまま衰退して滅亡したら取り返しがつかない。選択権や責任を与えると言えば聞こえはいいが、それは人類を見捨てることと同義なのではないかと、私は考えている」
 その言葉とは裏腹に、アズリが少しだけ不安気に瞳を細めたのを視界の隅にとらえました。
 このとき、サーリは察しました。アズリも自分と同じく、何が正しくて何が間違っているのか、本当は分からないのだと。
「だから、人類は天界の者たちが正しい未来へ導かなければならない。サーリ、暗殺は人間の命を奪える私たち死の天使にしか出来ない仕事なんだ。誇りを持っていい」
 その言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているようでした。
 アズリは気弱で優しいところはあれど、神々からの命令とあらば誇りを持って確実に任務をこなす、そういった責任感の強い天使でした。
 ですから、サーリも同じ宿命を背負う者として、渋々頷きました。
「……わかったよ、アズリ」
 羽をしまい、席について静かに紅茶を飲むアズリをじっと見つめます。
 彼は、神々やその周囲から絶大な信頼を寄せられています。
『兄に比べて妹は抜けている』
 アズリと比べられて悔しい思いをしたことも多くありましたが、そんな彼が羨ましく、憧れの存在であったことも事実です。
『私もいつかアズリに追いつきたい。神々や人類のために、きっと立派な天使になってやる』
 そんな熱い使命感を胸に秘め、今まで頑張ってきたところもありました。
(……でも、何が真実なんだろう。サティ様にアナナス、ロウズにヴァッサーゴ……彼らの行動は本当に間違っていたのかな)

 サーリに迷いが生まれ始めていました。
 彼女が気弱になっている理由は、それだけではありません。
 アナナスの生まれ変わりの命を奪いに行くことは、治療薬の完成を阻止することと同義なのです。生まれ変わりや治療薬と関わることで、いつかまた、ロウズに味方する不老不死の悪魔ヴァッサーゴと対峙する日が来るのではないか。そんな予感に身震いします。
『永遠に生まれ変わりが見つからなければいいのに』
 そんな気持ちさえ芽生え始めている自分に嫌気がさしました。
 ――あの事件から、気弱だったアズリは少し変わった。使命を今まで以上に忠実に果たそうと、まるで自らの心を凍らせているよう。そして気が強くて勇敢だったはずの自分は、弱虫になった。
 サーリはそう思いました。


17・9・20
◆ご報告

19日更新分のイラストストーリーに、たいへんな書き間違いがあり、最後の数行を修正しました。
ああ、ぼけぼけ・・・
どのへんが間違っていたのか、気づかなかった人はどうかそのままでいてくださいね。


17・9・19 (※9・20修正)
◆イラストストーリー

 アナナスの魂がレーテー川に流されてから、ひと月が経ちました。
 ここは、天界の中央都市。
 見渡すかぎり美しい白亜の街並みが広がり、各住宅に造られた整形庭園とそこに咲く多彩な花々が、住民たちの豊かな暮らしを象徴しています。
 そんな街の一画にある豪奢な邸宅がアズリたちの住まいでした。
 アズリは二階にある自室の窓辺に腰かけ、あたたかい日差しの中で本を読んでいます。その内容は人間の知識に関することばかり。
 本を閉じて一息つくと、爽やかな風が流れ込んでくる窓の外を眺めました。
 柔らかく揺れるレースカーテンの隙間には、虹色の空がどこまでも広がっています。さらに上を見上げると、神々が住まう荘厳な神殿が空に浮かんでいました。
 いつもと何ら変わらない風景。
「アズリー。ただいま」

 下から女の子の声が聞こえてきたので見下ろすと、アプローチで妹のサーリが大きな鞄片手に、こちらを見上げて手を振っていました。
「サーリ、仕事おつかれさま。二階へ上がってこい。いい紅茶が手に入ったんだ」
「ほんと!?」
 彼女は嬉しそうな表情を浮かべ、玄関から自宅に駆け込みました。
 アズリとサーリは、神々に仕える死の天使です。
 亡くなった人間たちの魂を回収する任務を与えられており、サーリは今日もその仕事を終えて帰ってきたところなのでした。

「キッチンから、昨日作ったクッキーを持ってきたよ。紅茶と言えばやっぱりこれだよね」
 可愛らしい形のクッキーがたくさん並べられた皿を銀のトレイに乗せて、アズリの部屋に入ってきたサーリは一見ごきげんな様子です。
 けれど、アズリは気付いていました。彼女が本当は無理していることを。
 部屋の中央にある丸テーブルに座り、香りの良い紅茶を楽しみつつ、二人は話し合います。
「人間界はどうだった」
「へ。いつもと変わらないよ。相変わらず葬儀って湿っぽいね。病院も戦場も同じ。そこで毎日、魂を狩って回収して天界に持ち帰って。あーあ、退屈だなあ。もっと刺激的な仕事が来てほしいものだよ」
 アズリは怪訝そうに赤い目を細めました。
「お前、演技が下手だな」
「演技なんかじゃ」
 サーリは慌てて否定しようとしましたが、言葉に詰まりました。それを見て、アズリはため息を漏らします。
「……本当は、人間界に行くのが恐ろしいんじゃないか」
 彼女は目を泳がせると、諦めてうつむきました。
「やっぱりアズリには嘘がつけないや」
 静かに表情を強張らせます。
 足元から襲い来る大量の蛇が脳裏をかすめると、わずかに寒気を感じ、片手で自分の体を抱きしめました。
 彼女はある悪魔に殺されそうになったあの日から、人間界に行くことに対して恐怖感を抱いていたのでした。
 また、いつかどこかで彼と再会するのではないか。他にも強力な悪魔が潜伏していて、突然命を奪われるはめになるのではないか。そんな最悪な状況が起こることを想像し、いつも震えながら天界の門をくぐっていたのでした。
 アズリはそんな彼女を一瞥すると、苦笑します。
「気位の高いお前のことだから、きっと情けないことだと思っているんだろうな。安心しろ、私も同じ気持ちだ」
 彼は席からすっと立ち上がると、背から真っ白な――ただ一点だけ赤く黒ずんでいる、大きな翼を広げました。

「ヴァッサーゴにつけられた傷、まだ治らないの?」
 サーリが、いまだに血がにじむ傷口を悲し気な瞳で見つめると、アズリは口元を歪ませました。
「先日、神殿に仕える医伯に診てもらった。この傷はもう永遠に治ることはないと。私たち天使は実体を持たないからと油断していた。まさか、人間界にあのような武器を扱う悪魔がいたなんて、思いもしなかった」
 ひと月前、アズリたちはアナナス暗殺のために降り立った田舎町ノースウェルにて、不老不死の悪魔ヴァッサーゴと対峙しました。
 翼の深い傷は、その時に負ったものです。
 あの事件の後、天使イシアイはノースウェルをくまなく探索し、情報を集めてくれました。
 サーリは、イシアイがふたりに調査報告してくれた日のことを、ぼんやりと思い出します。


17・9・17
◆雑記

ただの雑記。というか創作与太話。

2章を始めたというのに、なかなか更新が遅いですね。すこし事情がありまして。
実はここに来て「作者を無視して、キャラクターが勝手に動き出す」という謎現象が発生して戸惑ってます(汗)
こ、これが噂の・・・いろんな創作家からは聞いてはいましたが、初体験です。
プロットでは「このキャラはこういう行動をするキャラ」「ただの記号であり駒である」と割り切って作っていたはずなのに
私が考えていることと、別の考え方をしだして「どういうこと〜;;」と慌てています。
「このキャラ、こんなことを考えてたの?」と作者ながら驚かされます。
で、その考えや行動が、結末に矛盾をもたらさないかどうか、現在吟味中なのです。
面白くなるようであればGOサインを出すつもりですが、そうでなければストップをかけ、軌道修正します。
キャラの手綱をとるのに、ちょっと時間がかかるかもしれませんが、気長に見守っていただければ幸いです。


17・9・10
◆イラストストーリー

 ベッドで眠っていた私は、小鳥がさえずる声で目をさました。窓のほうを見ると柔らかな朝日が差し込んでいる。
 額に手を当ててみると、平熱になっていた。風邪はなかなか治らず、熱が下がるまで一週間もかかってしまった。
 今日は、カイルが引っ越してしまう日だ。
「行かなきゃ」
 体を起こすとまだ少しだるさを感じたけれど、構うことなくネグリジェから洋服に着替え、走って玄関に向かった。
「アナナス、まだ安静にしていなければ駄目よ」
 心配するママを横目に「すぐ帰ってくるから!」と返事して、カイルの家へ急いで向かった。
 田舎道を駆けていくと少しずつ、彼の家が見えてくる。
 門の前に、家具を詰め込んだ荷馬車がとまっていた。その横で、カイルと母親らしき女の人、そしてロウズとお付きのメイドさんが向き合って話し込んでいる。
「カイルー! ロウズー!」
 私が大きな声でふたりを呼ぶと、こちらを振り向いたカイルとロウズは「アナナス!」と驚いた表情で同時に叫んだ。

「間に合った。カイル……あのときは、助けてくれてありがとう」
 彼の前まで来ると、私はハアハアと息を切らしながらお礼を言った。
 ロウズは「彼、私たちが屋敷から出ていった後、なかなか帰って来ないから心配して森まで探しに来てくれたのよ」と、あの日のことを説明してくれた。
「途中で大雨は降りだすし、ふたりの叫ぶような声が森の方角から聞こえてくるしでびっくりしたぜ」と、カイルも肩をすくめる。
 あの日のことを思い出すと、自分の情けなさに涙がでてくる。
「突然、怒鳴って出て行ったりして、私、馬鹿だった」
 しょぼくれた顔の私とは対照的に、カイルが明るい表情で答えた。
「いいってそんなこと。アナナスが無事でよかった。それに俺がいままでロウズにひどいことをしたのは事実なんだ。すぐに許してもらおうなんて、ムシのいい話だって思ってる」
 突然、横にいたカイルの母親が眉を吊り上げ、彼の頭に手をのせて、ぐいとお辞儀させた。
「本当だよ、まったくこの子は。親の見てないところでやりたい放題!」
 それからロウズに謝った。
「ロウズさん、今までこの子がご迷惑をかけたようで申し訳ありませんでした。ブライトン家の恥ですわ。でも、カイルは本当に反省したようなんですよ。ロウズさんに謝りたいと、先月、私に相談してきたんです。実はこの1年間いろいろありまして」
(カイルが反省したのは本当だったんだ)
 私は、心を入れ替えた彼に何が起こったのか気になり、母親の言葉の続きを待った。
 ここから先は自分が話す、と言わんばかりにカイルが母親を片手で制し、口をゆっくりと開いた。
「……実は先月、飼い犬のレオが亡くなったんだ」
 レオ。ロウズに吠えたあの犬だ。私やロウズは怖がっていたけれど、カイルの言うことはよく聞いて懐いている様子だった。
 彼がレオを兄弟のように可愛がっていたことは、一緒に楽しく散歩していた姿からも伝わってきていた。
「レオ、ひどい病気にかかって、最後は目もみえず、歩く元気もなくなっちまったんだ」
「そうだったんだ」
 そういえば、この1年間、カイルが公園で遊んでいる姿を見かけたことがなかった。もしかしたら、ずっとレオの看病をしていたのかな?
 カイルは複雑そうな表情のまま話を続けた。
「ある夜、病気のレオを心配して庭の小屋まで見に行ったら、綺麗な毛皮に泥が塗りたくられてたんだ。たぶん近所の悪ガキの仕業だと思う。めちゃくちゃ怒って、今度来たらとっちめてやろうと何日か小屋を見張ってたんだけど、犯人は現れなかった」
 それから、カイルは眉根を寄せ、ロウズの顔をじっと見つめた。
「でさ、小屋の中で弱っていくレオをずっと看病していたら……ふっとロウズの姿が思い浮かんだんだ」

 泥を塗りたくられたレオ。泥をかぶせられたロウズ――カイルは犯人と同じことを、彼女にしたんだ。
 私は彼の切実な言葉に耳を傾け続けた。
「犯人はもう来なかったけど、怒りはおさまらなかった。レオ、1年間も苦しんだ末に逝ったんだ。それで、もしかしたらロウズもこういう風に苦しんでいるのかって、思うと……」
 語尾が詰まって、どんどん小さくなっていく。
「そのとき、俺はロウズに本当にひどいことをしたんだって気づいたんだ。ロウズだけじゃない、誰にだってこんなことしたらいけなかった。俺、最低なことをした。謝って許されることじゃないかもしれないけど、ふたりとも、本当にごめん」
 カイルは目を細め、悲しそうな表情で頭を下げた。こんな表情の彼は、はじめて見た。
 押し寄せる感情に耐えきれなかったのか、服の袖で目元をぬぐっている。
 いじめっ子のカイルは、もうそこにはいなかった。
 その姿を見ていたら、前におじいちゃんが教えてくれたことを思い出した。
 ――私が今より小さい頃の話だ。
 おじいちゃんが大切にしていたパイプを振り回して遊んでいたら、うっかり壊しちゃって、怒られるのが嫌で隠したことがあった。
 でも、おじいちゃんが悲しそうにパイプを探し回る姿を見ていたらこっちまで辛くなってきて、悩みに悩んだ末に正直に謝ったんだ。
 こっぴどく叱られると思って、恐くなってぎゅっと目を閉じたら、大きな手が私の頭を優しくなでた。
 おじいちゃんは、私を許してくれた。
『アナナス、お前は強い子だ。自分の過ちを認めて、謝ることはとても勇気がいることなんだよ。だがな、それと同じぐらい難しいのは、過ちをおかした者を許すことだ。若い頃、そのどちらも出来ずに別れてしまった知り合いが何人いたことだろう。わしは、弱い人間だった』
 おじいちゃんは寂しそうな目をしながら、後悔を語っていた。
 カイルは確かにひどいことをした。その事実は変わらない。
 でも、彼はそのことを認め、勇気をだして謝ったんだ。母親に相談したというぐらいだから、きっと何度も悩んだんだろう。大変なことだっただろう。
 だから、私も。
「そっか……話してくれてありがとう。こっちこそ、事情も知らずにひどいこと言っちゃってごめんね。カイルのこと、もちろん許すよ!なにより、ロウズ自身が許してるんだから。ね、ほら握手しよ」
 カイルに対する憎しみは、もう無くなっていた。
 私はロウズにウインクしたあと、微笑みながらカイルに片手を差し出す。
 顔を上げたカイルは、目に涙を溜めながらニッと笑い、固く手を握り返してくれた。あのときと同じく、カイルの手は温かかった。
「ふたりが仲良しになってくれて良かったわ」
 ロウズは両手を胸の前で合わせ、嬉しそうにしている。
 彼女の笑顔を見たカイルが、「あ、そうだ。これ渡さないと」と、肩にかけたカバンから、手のひらサイズの綺麗な装飾の木箱を取り出した。

 蓋にはちょっといびつな青い薔薇が描かれている。母親が苦笑し、指さしながら言った。
「この子、ロウズちゃんにプレゼントするって、一週間で頑張ってこれを作ったんだよ。絵心なんてさっぱりないのに、青い薔薇の絵まで描いちゃってさ」
「う、うるせーな。誕生日のときはプレゼントを用意できなかったんだから仕方ないだろ。ロ、ロウズ、もらってくれるか?」
 カイルは、顔を真っ赤にしながらロウズに木箱を差し出した。
「どうもありがとう。青い薔薇の絵まで描いてくれたなんて。見ることができないのが残念だけど、嬉しいわ」
 彼女が受け取ると、カイルが突然、真剣な表情で話し出した。
「ロウズ……青い薔薇の花言葉、知ってるか?」
 私はドキンと心臓が跳ね上がった。誕生日、カイルが話そうとしていたことだ。
 するとロウズは「ええ、知ってるわ。『不可能』でしょう。庭師の方から聞いたことがあるわ」とさらりと言ったので、私は目を丸くしてしまった。
「なんだ、知ってたのか。あのとき、俺が教えようと思ったんだけど。そうか、とくに気にしてる様子じゃなくてよかったぜ。この『不可能』って言葉、悪く聞こえるかもしれないけど、俺は好きなんだ。『不可能』があるということは『可能』にも出来るってことだろ。実際、自然界になかった薄青の薔薇が今は存在してる。アナナスが言ってたとおり、そのうち真っ青な薔薇だって栽培できるようになるだろうな」
 私は驚き、ただ彼の話に聞き入っていた。
「だからさ……ロウズの病気を治すことだって、いつか可能になる日が来ると思うんだ。きっと明るい未来が待ってるから、頑張ってな!」
 ああ、この言葉。この言葉すべてがあの日、カイルが言いたかったことだったんだ。
(私ってば、最低だ)
 彼の言葉を最後まで聞かず、勝手に決めつけて怒鳴って。私はあの日の言動を心から恥じた。
「カイル、元気がでる言葉をありがとう。私、頑張るわ。どんなに辛いことがあっても、ぜったいに乗り越えてみせる」
 ロウズは微笑みを浮かべ、それからそっと木箱の蓋を開けると、明るい音楽が流れ出した。
「わあ、オルゴールになっているのね! 素敵な曲……」
 カイルのセンスの良さに感心した。これなら目が見えないロウズでも、耳で楽しむことができる。
 すごく気持ちのいいメロディで、私も身を乗り出してオルゴールに聴き入ってしまった。
「ほんと! なんていう曲なの?」
「南部に伝わる民族音楽らしいぜ。俺も気に入ってるんだ。この曲、ロウズにぴったりの題名でさ……」

 題名は……あのとき、カイルはなんて言ったんだっけ。
 レーテー川の冷たい水を魂が吸い込むたび、ひとつひとつの記憶が蘇っては儚い泡となって消えていく。
 たしかに聞いたのに、とても好きな題名だったのに、もう思い出せないくらい私の記憶は曖昧になってきていた。
『アナナス』としての人生の邂逅は、きっとこれが最後になるだろう。苦い思い出ではあったけれど、最後にこの記憶を追体験することができて、本当によかった。
「でも……私。あの時たしか、カイルには謝ったけど、ロウズには謝ってなかった。一週間寝込んでいる間に、うやむやになっちゃったんだ。彼女を信じられなかった私が悪かったのに。誕生日を台無しにしちゃってひどいことをしたのに。本当はごめんねって言わなきゃならなかったのに」
 謝らなきゃ。
 けれど、記憶がどんどん薄れていく。
 レーテー川の水が魂の中にしみこんでいくたび、消えていく。
 ロウズのこと、忘れたくないよ……。


17・9・3
◆イラストストーリー

 私は田舎道を駆けながら、カイルが言おうとしていた言葉を思い出していた。
 ――青い薔薇の花言葉、知ってるか?それはな。
 青い薔薇は珍しいから、花言葉も一般的にあまり知られていない。けれど、私はおじいちゃんから聞いて知っていたんだ。
『不可能』
 由来はそのまま。真っ青な薔薇の栽培は、現在の技術では実現不可能だと言われているからだ。
 この花言葉はロウズには黙って、ずっと内緒にするつもりだった。
『不可能』という言葉は、不治の病にかかっているロウズにとって、辛い言葉に聞こえるかもしれないと思ったから……
 さらに、「真っ青な薔薇が見てみたい」と彼女が願ったタイミングでの、あのカイルの言葉だったから、私はかなり焦ってしまった。
(カイルの奴、きっとロウズや私を傷つけるつもりで『不可能』って言おうとしたに決まってる)
 また、ムカムカと腹が立ってきた。そして、そんなカイルにあっさり騙されてしまったロウズのことも許せなかった。
(ううん、許せないだけじゃない。悲しいんだ。私の言ったことを信じてくれなかったのが)
 カイルに味方したロウズ。私はまるで彼に負けて、大切な親友を取られてしまったかのような気持ちになっていた。
 ハッと我に返ると、道をそれていつの間にか森の入り口まで来ていた。目の前を見上げると、緑と橙の葉をこんもり茂らせた大きな木がある。
 ずいぶん遠くまで走ってきたのに「アナナス! アナナス!」と呼ぶロウズの声が追いかけてくるような気がした。
「……もしかしたら、本当に追いかけてくるかもしれない。ロウズならありえる」
 きっと、私のことほっとかない。親友思いの子だから。
 私は顔を横に振った。
「ええい、ロウズなんか知らないんだから」
 パンと音を立てて両手で耳を叩くと、目の前の大きな木に足をかけて、よいしょよいしょと枝をつたって登っていった。
 中腹あたりに突き出ている、長くて頑丈そうな木の枝の先っぽに座って一息つくと、「ここなら、ロウズは追いかけてこれないでしょ」と得意げに腕を組んだ。
 それでも……「アナナス」と必死に呼ぶ声がずっと耳に残っていて、罪悪感を感じる自分が情けなかった。


 突然、頬に冷たいものを感じて、ふと空を見上げるとポツポツと雨が降りはじめていた。地平線の遠くから暗く重たい雲がゆっくり近づいてくるのが見える。
 少し心配になってきて下りようかと迷ったけれど、やっぱり止めた。今下りたら、追いかけてくるロウズに出くわすかもしれない。彼女には妖精がついているから、ここまで道案内させることだって簡単に出来るからだ。
「まあ、すぐに止むでしょ。それにこの木、かなり大きいからひどく濡れることだってないと思うし」
 私の考えは甘かった。
 次第に雨風が強くなってきて、ザアザアと枝を揺らし始めた。
(そろそろ下りたほうがいいかも)と思ったときには、遅かった。
 大雨が降りはじめて、あっという間に、目の前の風景が見えなくなってしまった。横殴りの雨風が非情にも髪や服を濡らしていく。
(まずい。これ、大嵐だ)
 頑丈だと思っていた枝はミシミシと音をたてながら左右に揺れ、今にも折れてしまいそう。
 はやく下りたくて枝の根元まで行こうとしても、濡れた枝は思った以上につるつるしていて、手や足を前に出すたび滑り落ちそうになる。
 突然、いちだんと強い雨風が襲いかかってきて、私は必死で枝にしがみついた。体が半分ずり落ちて、恐怖で震えた。
「だ……れか……だれか助けて!」
 大声で叫ぶけれど、吹き荒れる風に虚しくかき消されてしまう。下を見やると、地面がゆらゆらと大きく揺れている。ちがう、枝と一緒に自分の体のほうが揺れているんだ。
 頬を殴りつける雨風がいっそう激しくなってきて、枝の軋む音も大きくなり、先端がゆっくり下方に傾いてきた。これだと、あと10分ももたないかもしれない。
 このまま枝と一緒に落ちて死んでしまうのではないかと、涙がでてきた。
「だ、だれか、助けて! お願い、だれか来て!」
 恐怖で叫び続けていると、「……ナナス」とわずかに小さな声が聞こえた。
 聞き覚えのある声。いつも聞いている、女の子の声。
「ロウズ!」
 下を向いて目を凝らすと、車椅子に乗ったロウズが心配そうに上を見上げている。やっぱり、追いかけてきてたんだ。
「アナナス! 木の上にいるのね。下りられなくなってしまったの!?」
 突然、あたりが真っ白な稲光に包まれ、耳をつんざくような雷の音が鳴ると、ロウズはビクリと肩を震わせた。
 けれど、次の瞬間、驚くべき行動にでた。
 彼女は震える足で車椅子から立ち上がり、地面に足をつけたのだ。鎮痛剤を打っているとはいえ、立ちあがるのは、かなりの痛みをともなうはずなのに。
 案の定、すぐに立てなくなって、べしゃりと泥沼となった地面に突っ伏した。
 それでも両手をついて必死な表情で上半身を起こし、震えながら座り直すと、大きく両腕をひろげてこう叫んだんだ。

「アナナス、聞こえる? 私がクッションになるから、腕の中に飛び込んで!」
 ロウズはほぼ真下にいるから、風がやんだ瞬間に少し位置を調整して落ちれば、彼女のところまで届きそうだった。
 でも、もし少しでも着地の位置がずれてしまったら……
 それに、私より彼女のほうが背が高いとはいえ、あんなに細い体じゃ受け止めきれないのではないか。そう思うと勇気がでない。
 私は首を振った。
「そんな体で、無理に決まってるじゃない!」
「大丈夫。絶対に受け止めてみせる。私を信じて!」
「やだ、怖いよ。絶対無理!」
 ぎゅっと枝にしがみつきなおして、固く目を閉じた。
「アナナス、落ち着いて私のほうだけ見て飛ぶの。勇気をだして!」
 そのときだった。
 遠くからバシャバシャと足音が近づいてきたので、片目だけあけてそちらを見やると、背の高い男の子が駆けつけてきた。
 よく目を凝らして見ると、雨でずぶ濡れになったカイルだった。
 カイルはロウズのそばを颯爽と横切ると、木に足をかけて枝から枝へ、器用に飛び移っていく。
 私のつかまっている枝までたどり着いた彼は、低姿勢になり、慎重にそばまで近づいてきた。
(まさか、助けにきてくれたの?)
 カイルが近づくたび、軋む音を立てながら揺れる枝が怖かったけれど、私は勇気をだして彼のほうへ、ぐっと片手を伸ばした。
 カイルは震える私の手を強くにぎりしめ、大きな口を開けて笑った。
「もう大丈夫だ。すぐに下ろしてやるからな」
 その笑顔に安心した私は、こらえきれずに嗚咽を上げてむせび泣き、彼の手をぎゅっとにぎり返した。
 雨に濡れているのに、彼の手はとても温かかった。
 ――ここから先は記憶がない。
 気が付いたら、見慣れた天井をぼうっと眺めていた。ここは……私の部屋。ふかふかした布団の感触。ベッドの中だ。
 心配そうに私をのぞき込む、パパ、ママ、おじいちゃんが、ぼんやりと視界の端にうつる。
「アナナス! ああ、目がさめたのね。無事でよかったわ。カイルくんが気絶したあなたを背負って連れて帰ってきてくれたのよ。もう、あまり心配かけないでちょうだい」
 ママが涙を流しながら、私をぎゅっと抱きしめる。
「……心配かけて、ごめんなさい」
 言葉を発すると、頭がガンガンと痛む。額に手の甲を当てると、かなりの熱さを感じた。
「熱があるのよ。たぶん風邪をひいたのだと思うわ。しばらく安静にしてなさいね」
 ママが私を横にし、布団をかけ直してくれた。
(カイル……私のこと、助けてくれたんだ。私、彼に悪いことしちゃった……風邪が治ったら、お礼を言わなきゃ。そういえば、ロウズは……ロウズはどうなったの?あの後、ちゃんと屋敷に帰ったのかな。足、痛くなかったのかな。ロウズも風邪ひいてないかな……)
 急に眠気が襲ってきて、私の意識はまた、だんだんと遠のいていった。


17・9・2
◆雑記

前回からレイアウトを変えてみたのですが、
1920×1200以外のブラウザからだと、崩れているとの報告をいただいたので、改めて作り直してみました。
今回から、すべて左寄りに配置するように変更しました。あと日にちごとに、線を引いたほうが分かりやすいかも・・・
これで大丈夫かな?とは思うのですが(^^;
サイト作りは他の環境からだと、どうなっているのか分からないのがネックですね。


17・8・28
◆イラストストーリー

期間が空きましたが、「ロウズと悪魔の物語 2章」をぼちぼち始めます。
今回長いお話なので、更新が止まったり挫折したらすみません(毎回言ってるな 汗)。

■前書き
 今回から、キャラクターたちの心の中の会話は『』(二重カギカッコ)で表すように変更しました。ロウズ、ヴァッサーゴ、チップたちのテレパシーのような会話のことです。これでちょっとは読みやすくなったかもしれず。

●前回までのあらすじ
 ロウズ、ヴァッサーゴ、チップは魔女ゲルダの協力のもと、無事に旅立つことになりました。
 一方、レーテー川に魂を流されたアナナスは……


 サティの歌声が聞こえる。美しい旋律が徐々に遠のいていく。
 サティが編んだ小さな銀の船は、しだいにほどけて幾筋の淡い光となり、私の魂と一体化していった。
 レーテー川に流された私は、いままでの人生が脳裏に幾度となく蘇るという不思議な体験をしていた。
 私、『アナナス』の家族のこと、学校のこと、薬の研究のこと。そして……大切な親友のこと。

「10歳のお誕生日おめでとう、ロウズ!」
 10月13日。今日は大好きな親友の誕生日。
 私は、ロウズの屋敷のダイニングルームの扉を開けると、颯爽と薔薇の花束を差し出した。
「わあ、ありがとうアナナス!」
 私が訪れたことに気づいたロウズは、照れくさそうな笑顔を浮かべながら、車椅子でこちらまでやって来た。
「赤か黄色かピンク。どれにしようか迷ったけど、ロウズの目の色は青だったってメイド長さんから聞いたから、青の薔薇を買ってきたよ」
 ロウズは花束に手を伸ばして優しく撫でている。

「まあ、こんなにたくさんの薔薇! 嬉しいわ。それにしても青色……どんな色なのかしら。物心つかない頃はまだ目が見えていたから、もしかしたら記憶の片隅にあるかもしれないわね」
「綺麗な色だよ。私の想像では、ロウズの瞳は夏の青空みたいに澄んだ青色だと思う。でも、この薔薇はちょっとだけ薄いし、くすんでるのが残念」
「薄い?」
「うん。おじいちゃんから聞いたんだけど、自然界には青い薔薇は本来存在しないんだって。薔薇にはもともと青い色素がなくて、まだ品種改良の途中だから、どうしても薄くなったりくすんでしまうんだって。でも今後、遺伝子組み換え技術の進歩で、真っ青な薔薇が作られるかもしれないって言ってた。楽しみだよね。ロウズの目が治ったとき、一緒に見ることができればいいなあ」
 ロウズが首をかしげている。
 しまった、おじいちゃんとの会話の癖でつい難しい話をしちゃった。頭の上にハテナマークが浮かんでいるのが見えるよう。
「遺伝子組み換え? やっぱりアナナスは頭がいいわね。私にはよくわからない話だわ。でも、アナナスが綺麗な色だと言うのなら私も見てみたい。真っ青な薔薇……実現すれば素敵ね」
 嬉しそうにそう言うロウズを見て、私が満足げに頷いたとたん、突然、彼女の後ろから男の子の声が聞こえてきた。
「青い薔薇の花言葉、知ってるか?それはな」
 声変わりの最中といった、低いけど高い不思議な声質。私はロウズの後方を覗き込むと目を見開き、驚いた。
「カイル!?」
 誕生日用のケーキやお菓子が用意されたテーブルに、明るい茶髪の男の子――カイルが座っていた。
 私たちと同い年なのに背が高くて、12歳ぐらいに見える。にやりと笑った大きな口元が印象的だ。

 ロウズは私に気まずそうに口を開く。
「今年の誕生日パーティーはアナナスだけじゃなくて、カイルも呼ぶことにしたの」
「なんで!?」
 私は目を吊り上げ、カイルを睨み付けた。あたりまえだ。カイルはこの町一番のいじめっ子なんだから。
「ロウズ、正気!? カイルに今までされたこと、忘れたんじゃないよね?」
 ロウズといつも一緒に遊んでいる私は、彼女が1年前までカイルに沢山いじめられていたことを知っている。
 公園で散歩している彼女に、とつぜん頭から泥をかぶせたこと。彼女の着ている綺麗な服に「メクラ」だの「ビョーゲンキン」だの、絵筆で落書きしたこと。大きな飼い犬を連れてきて目の前で吠えさせ、驚く彼女を大笑いしたこと。
 いたずらのたびに私が怒って、ロウズに近づけさせないようにカイルを追い払った。
 さまざまな嫌な思い出がよみがえってきて、ムカムカする。
 そんな私の敵意を察したのか、カイルは決まりが悪そうに目をふせ、頬を掻きながら言った。
「今まで悪かったよ。実は俺、1週間後に遠い街に引っ越すんだ。もう二度と会えなくなるから、ロウズに謝りに来たんだよ。そしたら今日、ちょうど誕生日パーティーだから家に入らないかって誘われて……」
 なに、カイルがロウズをいじめていたことを反省しているっていうの?
(ううん、そんなはずはない。だって)
 私は彼を許せず、怒鳴った。
「信じられない。どうせまたパーティーをめちゃくちゃにしに来たんでしょ」
「んなことするかよ。この1年間いろいろあって、俺なりに反省したんだ」
 カイルは口から笑みを消し、拗ねたような口調で言う。
 ロウズは困ったような表情になると、私の手を握りしめて訴えた。
「アナナス。彼、本当に反省してるみたいなの。許してあげて。アナナスとも仲良くなってほしいの」
「ロウズ。反省しただなんて、ぜったい嘘だよ。騙されてるよ! だって……」
 私は目をふせて、手に持っている薄青の薔薇を見つめた。
「?」
 ロウズが不思議そうに首をかしげて、次の言葉を待っている。カイルは両腕を頭にまわし、そっぽを向いていた。
 頭にきた私は、思わず花束を無造作に投げ捨て「ロウズのわからず屋!」と叫び、屋敷を飛び出てしまった。
 驚いたのか「アナナス! アナナス!」と何度も必死に呼び止めるロウズの声が後ろから聞こえてくる。
 けれど、私は戻らなかった。振り向きさえしなかった。

 あの時ロウズは、目は見えないけれど、床に散らばった薄青の薔薇を思い浮かべ、悲しい気持ちになったに違いないだろう。


17・8・20
◆予告


モニカとメグ


ケインとエリー

ああ〜ずいぶん間が空いてしまった・・・まだここ見てくださってる方いるのかな。
もし更新を楽しみに待ってくださってる方がいたらすみません(^^;

思った以上にUndertale沼が深くて、ここ1カ月Undertaleのことしか考えられませんでした(笑)
恐ろしいゲームだ。だって3ルート、まったく違うゲームなんですよ。同じゲームのはずなのに・・・考察動画など見漁りましたとも。
とはいえ遊びっぱなしでもなく、創作もぼちぼちやってました。
そろそろ「ロウズと悪魔の物語 2章」のプロットも、まとまってきました。

ストーリー自体は最初から最後まで仕上がってるのですが、なにせこのお話、ずいぶん昔に考えたもので
改めてプロットを読み返すと「ここ直したい。ここはこうすればもっと良くなりそう。あ、でも変更するには辻褄が合うようにしなければ・・・」
と、どんどん手直ししたい部分が増えてきて。
実はまだいじり足りないのですが、こんなことしてたら一生完成しないので、キリのいいところで始めたいと思います。
ひとまず新キャラの紹介絵だけ描き下ろしました〜。微妙に衣装デザインを変えたりしました。


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