■1章|16


 一心同体となったふたりは、町はずれのバラ園まで案内してくれるという妖精のあとを追いかけます。
「すごいわ、景色がどんどん流れていく」
 ロウズはびっくりしていました。まるで風にでもなったかのように身体が軽いのです。足もやわらかいバネのよう。一歩踏み出すごとに、自分の身長の倍はあろう距離を、飛ぶように進んでいきます。
 まわりの風景が無数の線のようになり、耳からは風を切る音が聞こえてきます。妖精もかなりの速さで飛んでいるというのに、うっかりすると追い越してしまいそうでした。
(いつも牢の中で大人しかったヴァッサーゴが、こんなにすごい身体能力の持ち主だったなんて)と驚きます。
 それ以上に不思議なのは、本来弱弱しい自分自身が今まさに超越した身体能力で動いているということでした。
 これが憑代になるということなのだと思いました。
(彼の協力があればきっとアナナスを助けられる。今すぐ行くからどうか無事で)
 そう強く願います。
 いつの間にか、月明かりは重たい雲で遮られ、あたりは真っ暗になっていました。夜空からわずかな雷鳴が轟き、空気が湿り気を帯びてきます。次第に雨がぽつぽつと降り始めました。
 妖精たちの案内で、荒れ果てたバラ園に到着したロウズたちは、遠くに対峙するふたつの人影を目撃します。
 ひとりは赤髪の、小柄な少女の後姿。
 過去視で幾度となく見たその容姿とまったく同じなので彼女がアナナスだと確信します。
「アナナス!」
 そしてもうひとり、フードから覗くその顔は。

「まさか……!」
 以前、ロウズが過去視をして以来、二度と見たくないと思っていた人物。
 婚約者ジルのものでした。
 二人に近づいたとたん、ロウズは目の前に広がる光景に息がつまりそうになりました。


 ロウズが肉眼で初めて見た親友。
 それはナイフで喉を切り裂かれ、大量の血を散らす姿でした。
 さらにとどめをさそうとナイフを振り下ろすジルを確認したので、ヴァッサーゴは剣の鞘を抜きつつ風のような速さで駆け寄り、彼の手元めがけて刃を薙ぎました。
 ジルの血と、手から離れたナイフが宙に舞い、弧を描きます。
 彼のつんざく悲鳴を耳にしながら、ロウズたちは倒れこんだアナナスに急いで駆け寄りました。彼女の呼吸と心音を確認するも、すでに停止しています。
「嘘……そんな……嫌よ……」
 ロウズのかすれた心の声が虚しく響きます。
 間に合いませんでした。
 アナナスが殺されてしまったと、二人は頭の中が真っ白になりました。

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