■1章|3

 ロウズはまず、教会関係者からあたってみようと思いました。妖精が彼女の目の代わりになってくれるというので、案内され、教会内部に入ります。平日の教会は誰もおらず、いつもと違って空気がひやりとしており、静かです。
 まずは老司祭に尋ねようと思い、すぐにその考えを捨てました。彼は悪魔祓いを何度も経験しているという話を聞いていたからです。もしヴァッサーゴを解放しようとしていることがばれたら、ただではすまないと危惧しました。
 考え込んでいたとき、向こうからコツコツと足音が聞こえてきました。ロウズは目が見えないせいで、普通の人より聴覚が発達しており、誰の足音か聞き分けることができました。
「この規則的な足音は……助任司祭のグレンさんだわ」
 グレンは1カ月前にこの町にやってきた若き司祭です。主任の老司祭の体が悪くなってきたため、手助けにやってきたという話を以前、祖父から聞きました。
穏やかな人柄と評判の彼なら、ロウズの話を気味悪がらず聞いてくれるかもしれない。
 そう思ったとき、向こうから話しかけてきました。妖精たちは人が怖いのかぴゅっとどこかへ飛んでいき、隠れてしまいました。

「ロウズさん、でしたよね。こんにちは。今日は一人でどうされたんですか?お付きの方はどこへ行かれたんでしょう」
とキョロキョロあたりを見回している様子なので、ロウズは焦り、とっさに言いました。
「だ、大丈夫です。しばらくしたら戻ってくると思います」
 なるべく嘘をつきたくなかったので、本当のことを言いました。しかし、お付きが妖精たちだとはさすがに言えませんでした。その勢いのまま「あの、ちょっと聞きたいことがあるんです。この教会に古い剣が置いてあったりしませんか?」これぐらいの長さで、黒い色の剣です。と両手を広げてグレンに尋ねました。
「黒塗りの剣ですか。この町のおとぎ話にでてくる悪魔の剣と特徴が似ていますね」
 とたんに声のトーンを低くして話すグレンにロウズはどきりとしました。
「どうしてその剣を探しているんですか?」と怪訝そうな声で問い詰めてきたので、やはり教会関係者に尋ねるのはよしておけばよかった、と後悔しました。
 しかし、ここまで来て引き返すのも情けないと思い、さらに聞いてみます。
「おとぎ話を聞いてから、ずっと気になっていたんです。もし置いてあるなら場所を知りたいと思って」
「僕はこの教会に来たばかりなので詳しくは知りません。しかし悪魔の剣がどうしてそんなに気になるんです」
「それはその……えっと」
 しどろもどろになった彼女をグレンは睨みつつ、ため息をつきました。
「あまりこの教会でそういったことを言うと、悪魔が憑いていると疑われても仕方がないと思います。ロウズさん、奇妙な力を持っていると噂のあなたは特に。今回は聞こえなかったふりをしますが、立場上どうしても見逃せない場合もあるので、気を付けてください」
 忙しいので失礼します。と去っていこうとするグレンを引き留めようと腕を伸ばしたものの、手を軽く払われ、ロウズはショックを受けました。改めて悪魔は嫌われ者なのだと理解します。何百年も牢の中でひとりぼっちのヴァッサーゴの姿を思い出して胸が苦しくなりました。
 ロウズはなぜ会ったばかりの彼にここまで肩入れできるのか不思議でした。そしてよく考えてみて気づきました。嫌われ者ゆえ、牢の中に閉じ込められひとりぼっちになったヴァッサーゴ。嫌われ者ゆえ、町になじめずひとりぼっちのロウズ。
「そうか、ヴァッサーゴと私は似ているんだわ」

 しょんぼりしながら教会を出たロウズを妖精たちが励まします。
「ロウズ、ごめんね。私たちも協力できればいいのだけど、一族の掟で悪魔と関わることは禁止されているの」と謝るのでロウズは首を振り「私は目が見えないから、案内してもらえてるだけでありがたいわ」とお礼を言いました。
 そして「さっきは失敗しちゃったけど、町の人たちなら何か知ってるかもしれない。これからも案内お願いできるかしら」と言うロウズに妖精たちは「うん!」「まかせて」と元気よく返事しました。

 結局、その日の収穫はゼロでした。ロウズのことを気味悪がって話を聞いてくれない人が半数。聞いてくれても「エペタムなど知らない」という人が半数でした。
 ヴァッサーゴにしょげながら報告すると「没収されたのはもう何百年も昔の話だ。人の手を渡って、この町にはないのかもしれないな」と彼も落ち込みました。
 しかしロウズは諦めきれません。
「まだ住宅街のほうが残っているわ。可能性は低いけど、もう少し探してみる。それに、もう一か所、とっておきの場所が残ってるから」
と、また車いすを通りに向けようとした時、ケホケホとせき込みました。ヴァッサーゴは焦ったように身を乗り出します。
「大丈夫か。今日はもう休んだほうがいいんじゃないか」
「ロウズ、今日は帰りましょう。もう夕方だから、体が冷えたのかも」と妖精たちも心配しています。
「うん、そうする……また明日ね、ヴァッサーゴ」
 そう言ってばいばい、と手をふり背を向けた彼女を見て、胸が痛んだヴァッサーゴは呼びかけました。
「ロウズ」
「なあに?」
「奴隷にするなんて言った俺が悪かったよ。もうエペタムのことは内心どうでもいいんだ。一生牢の中は辛いが、一人には慣れてる。今まで何百年とこうやって過ごしてきたんだ。昨日と今日だけは例外だったけどな。これからもいつもどおりの毎日がやってくるだけだと思えば、そんなに苦じゃないさ」
と、ヴァッサーゴが淡々と言うので、ロウズは悲しくなってしまいました。
 彼女はまわりにどんなに嫌われ、避けられても、アナナスや妖精たちがずっとそばにいてくれたので寂しくありませんでした。
でもヴァッサーゴは本当にひとりぼっちなのだと思うと、自然と涙があふれて止まらなくなるのでした。

 ぽろぽろと涙を流すロウズを見たヴァッサーゴはぎょっとしました。
「う、泣かせるつもりはなかったんだけどな……ああ、どうしたらいいのかな」と慌てる彼に、ロウズは向き合い力強い口調で言いました。
「ヴァッサーゴ、これからはあなたをひとりぼっちにさせないわ。これからは体調のいい日はいつもここへ来る。寂しくないように、アナナスから聞いた楽しいお話をいっぱいしてあげる。もちろんエペタム探しだってまだまだするわ。だから、そんなに悲しいことを言わないで」
 そして涙をぬぐいこう言いました。
「私はあなたの奴隷になったのだもの。ずっと傍にいる」
 こちらを見つめるその顔は真剣そのものでした。
 ヴァッサーゴは目を見開き、そのあと、明るくアハハと笑いました。こんなに心がくすぐったく、そしてあたたかくなったのは、本当に久しぶりでした。昨日知り合ったばかりの少女、それも大嫌いだった人間にこんなことを言われる日が来るとは思っていなかったのです。
「ロウズ、本当にありがとう。でもな、一つだけ訂正するよ。こういう時は奴隷じゃなくて友達って言うんだ」
と言い、ヴァッサーゴは牢の窓からすらりと長い腕を差し出しました。それを見て握手を求めていると理解したロウズは、みるみるうちに表情が明るくなっていきました。
ヴァッサーゴの大きな手をぎゅっと握りロウズは元気よく答えます。
「ええ、今日から私たちは友達ね!」

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